民泊には180日という営業日数規制がかかるうえ、住宅宿泊管理業者に委託しなければいけないということは費用もかかる。このような状態では、誰も住宅宿泊事業者になりたい、なんて思わないですよね。そこで用意されたのが、「改正旅館業法」です。機能していない民泊新法にかわり、空き家などの再利用を促進も念頭に以下のように改正されました。
かつては、最低でも旅館なら5室、ホテルなら10室必要だった要件が撤廃され、1室でも9平米以上の寝室があれば旅館・ホテルの許認可(かつては和風の旅館と洋風のホテルは許認可が分かれていましたが、この改正で統合されました)がとれるようになりました。小規模物件の再利用に活路を開いたわけです。さらにトイレの数(1個でOK)や浴室も規制が緩和されました。
そしてゲストハウスの許認可である「簡易宿泊所」ではなく「旅館・ホテル営業」の許認可というところがポイントなのです。
窓先空地(意味についてはリンク先のページのコラムを参照)については、簡易宿泊所には適用されますが、旅館やホテルには適用されません。つまり宿泊者に提供する部屋の窓の前にスペースがなくてもOKとなったのです。これにより、宿泊に供せる居室がものすごく増えることになりますね。普通の一軒家の部屋でも問題ないわけです。
もうひとつ大きなポイントがフロント(玄関帳場)の設置が以下の指針(指針なので絶対ではないですが)をおおむね満たすかぎり、不要になったことです。
1.事故が発生したときその他の緊急時における迅速な対応のための体制が整備されていること。緊急時に対応できる体制については、宿泊者の緊急を要する状況に対し、その求めに応じて、通常おおむね10分程度で職員等が駆けつけることができる体制を想定しているものであること。
2.営業者自らが設置したビデオカメラ等により、宿泊者の本人確認や出入りの状況の確認を常時鮮明な画像により実施すること。
3.鍵の受渡しを適切に行うこと。
これは民泊新法における、誰かが必ず対象物件にいないといけない、1時間以上留守にする場合は住宅宿泊管理事業者に委託しなければいけない、といった縛りから、ある程度解放してくれることを指します。近隣なら職場で働きながらでもチェックイン業務をICTを使いこなすことで完了できてしまうわけです。
ただし条例ベースでこれを認めない場合もあります。例として京都市ではあくまで簡易宿所(ゲストハウス)に対してですが2020年3月より、一棟貸しの場合は緊急時に管理者が10分程度(距離にして800m圏内)で駆け付けられる場所に常駐することが求められます。ビルタイプの場合は従来通りの施設内に帳場が必要になります。条例をきちんとチェックしないといけませんね。
民泊はあくまで住居をそのまま宿泊客に供するためのシステムですが、ホテル・旅館業は専ら宿泊に供するために建物の用途変更(意味についてはリンク先のページを参照)が100平米超の場合は必要になります。これはかなり大変な要件をクリアしないといけません。しかし、100平米以下の物件なら用途変更が不要なため消防基準をクリアできればOKとなります。
これにより小規模なホテルが今後乱立することになると予想できます。それはそうですよね。宿泊を提供するなら民泊よりもこのホテル・旅館業の営業許可のほうが圧倒的に優位ですからね。(比較対象の民泊のほうのメリットが少なすぎるという言い方もできてしまいますが・・)一軒家にお住いの方で、宿泊に供したい部分が100平米以下なら検討してみる価値大です。ホームステイ型民泊の完成形が期待できそうですね。
民泊新法 | 改正旅館業法 | |
資格 | 住宅宿泊事業者 | 旅館・ホテル営業 |
資格取得 | 比較的容易 | 比較的容易(100平米以下なら) |
営業規制 | 180日まで | なし(365日OK) |
管理 | 住宅宿泊管理事業者に管理を委託 | 自身で管理してOK |
なお、サブリース(転貸)で近隣の部屋を借りまくり、それを改装して、それぞれの物件ごとに旅館・ホテル営業の許認可を取得し、一か所のフロントで対応するというスタイルのビジネスが今後見受けられそうですが、こういった不動産投資ビジネスとしてではなく、空き物件の多い商店街などを転用する地方創生ビジネスとしての発展も期待できそうですので、改正旅館業法の活用の幅は広そうです。