民泊新法が単なるジェントリフィケーション対策法とならないためには、家主不在の「不動産投資型民泊」と家主居住型の「ホームステイ(シェア)型民泊」の区別が重要ということは、こちらで述べました。
残念ながら、現時点における民泊新法の立てつけは以下の障壁により、ホームステイ(シェア)型民泊の運営を妨げるものとなってしまっています。
なお、以下は受託宿泊事業法施行要領作成当局の観光庁観光産業課に確認した内容に基づいています(2017年12月27日13:16 村井さま回答)。
法11条第1項において、家主不在型の民泊の場合は、住宅宿泊管理業者を雇いなさい、と決められています。これは当然で、家主がいないのですから代わりに掃除などをする事業者が必須になるわけです。問題なのはその不在の定義です。ガイドライン2-2(7)③において、1~2時間の買い物程度はOKだけど、仕事にいくなどして不在にしたら、それも家主不在型民泊である!という解釈になっているのです。つまり、実際にその物件に居住していても専業主婦(夫)のように家に常在する人間がいない場合は、これも住宅宿泊管理業者を雇え!ということになるのです。
しかも恐ろしいことにガイドライン2-2(7)①には、住宅宿泊管理業者へ委託した場合は、その業務の一部を自ら行ってはいけない、と記載されているのです。つまり実際に住んでいても住宅宿泊管理業者へ委託した場合は、旅行者用の部屋の掃除も自分でしてはいけないのです。自分でするかしないかを住宅管理業者と相談して決められるのはガイドライン1-1(3)に記載のある「設備の保全」、「鍵の受け渡し」、「旅行者退室後の状況確認」のみです。住宅管理業者へ委託したら基本的に全部任せなさいということです。仕事で不在にしている時にカギの受け渡しだけお願い、というわけにはいかないのです(カギの受け渡しだけ自分でやることができてもその逆は不可!)そればかりか、旅行者用の部屋掃除のために自身が居住している住居に面識のない管理業者のスタッフの侵入を許すという意味になりますから、あまりいい気持ちではありませんよね。ど~しても自分で管理したいなら自らが住宅宿泊管理業者になる方法がありますが、これには要件(リンク先の住宅宿泊管理業者の要件をご覧ください)があり、誰でもなれるわけではありません。
ガイドライン2-1(3)②で民泊の届出の際は、消防署から「消防法令適合通知書」を取得することが明記されました。これ自体はとても良いことなのですが、1~2時間以上不在にする場合は、家主不在型民泊と見なされるため、ガイドライン2-2(2)①で記載のある通り「非常用照明器具の設置」が必要になりました。これは玄関口につける誘導灯ではなく、停電時に自動で点く天井ライトのことです。これには配線工事が必要なため電気工事業者への依頼が必要になってきます。通常の居住用物件の屋内には付いていませんから、必ず発生するコストとして見積もったほうが良いでしょう。夜間働いている人以外、通常ホームステイ型民泊では同じ屋根の下で管理者も寝ているので、家主居住型民泊と同様の扱い(非常用照明器具は不要)で良いような気がするのですが・・・。
ただし家主不在型でも居室(宿泊室やLDKなど)で下記の「全て」を満たす場合はその居室には不要ですので、チェックしましょう
☑居室が避難階又はその直上や直下にあること。そして避難階の場合は屋外へ歩行距離にして30m以下、直上直下の場合は20m以下であること
(要は普通の一軒家とか小さいアパートならまあ許してやるか、ということ)
☑採光に有効な開口部(窓のこと)面積合計が居室の床面積の1/20以上であること
(例、6畳間ならざっくり10㎡なので窓面積の「合計」が0.5㎡(約70cm四方)あればOK。要は普通の窓があればOK)
しかしながら、外気に開放されていない「通路(廊下)」がある場合は、そこの廊下に必要になってしまうので、注意してください。
(要は左右に部屋があり、窓から明かりがさしこまない廊下には必要になる)
パターン(全て客室数は5以下を想定) | 分類 | 標識 | 非常用照明 | 住宅宿泊管理業者への委託要否 |
パターン1:家主が居住しており、必ず誰かが家にいる家庭 (1~2時間以内の不在含む) |
ホームステイ(シェア)型民泊 | 4号 | 不要 | 不要(もちろん、掃除代行業者などは任意で雇っていい) |
パターン2:家主が居住しているが、同敷地内の「離れ」などに住んでいる家庭 | ホームステイ(シェア)型民泊 | 5号 | 不要 | |
パターン3:家主が居住しているが、1~2時間以上誰もが不在になる家庭 |
家主不在型民泊! | 6号 |
要 ※ |
必須(貴方が居住している物件に自動的に掃除に業者が来る。これが嫌なら自らが住宅宿泊管理業者になるしかない!) |
※上記の通り、一定の条件を満たす場合は設置不要
つまり、仕事などで誰もいない状態が1~2時間以上続く場合は、住宅宿泊管理業者に委託しない限り民泊はできない!ということなのです。事実上のホームステイ(シェア)型民泊であっても分類上は家主不在型の不動産投資型民泊と同様と見なされ、余計なコストがかかるのです。民泊の元来の意義である旅行者とローカルの交流を妨げるような立てつけになっているというわけです。
ちなみに住宅宿泊事業者の標識における4~6号の明記事項の違いは以下のとおりです。
4号:住宅宿泊事業者の届出番号・届出年月日
5号:4号内容+住宅宿泊事業者の緊急連絡先(1~2時間ほど不在にするので)
6号:4号内容+住宅宿泊管理業者の名称・登録番号・緊急連絡先(委託するので)
特に6号の住宅宿泊事業者となる場合、「民泊代行サービス」と称して各種支援サービスを行っている業者を利用することが違法となる可能性が大きくなります。かならずコチラのページで、うっかり利用すると違法になる民泊周辺サービスについて学習しましょう。
唯一の希望(というか楽観的解釈)としては、「住宅に人を宿泊させる場合、届出者が不在とならない場合」という民泊新法第3条2項の文言について「宿泊させる場合」の定義がガイドラインで明示されていないことです(「不在」の定義はなされていますが)。かなり苦しい言い訳ですが、宿泊とは「寝具を使用して施設を利用すること」と旅館業法で定められていますので「家主不在時には寝具の使用をしない」ことを宿泊の条件として、純然たる家主常在のホームステイ型民泊です!と謳うことくらいでしょうかね。いずれにせよ、本当に常在しているのか否かの確認方法が確立されていない以上(確認方法は自治体の裁量になります)、実際に居住しているのに自らコストのかかる家主不在型民泊です、と申告するのも正直者が馬鹿をみる世界です。当面はガイドラインの運用を見極める必要がありそうです。