第四講:日本に合ったDMOのありかた


DMOの三層構造を意識しよう

 第三講では日本のDMOを取り巻く国体に依存する構造的な問題を見てきました。ただこの問題は実は海外と同じように完璧なDMOという「組織」を育成しようとするから上手くいかないのです。DMOの果たすべき役割が国、中間政府、基礎自治体レベルそれぞれで機能していれば良い、という発想に置き換えれば解決策は自ずと見えてきます。日本全体で漏れなくダブりなくDMOの機能を網羅できていれば、DMOの目的(観光による地域の活性化)は果たせるのです。

 言い換えれば、日本の行政のスタイルや自治体の権限を変更しないと欧米のようなリーダー的なDMOは育成できませんが、そもそもDMOの機能を国・中間政府・基礎自治体の三層間で分担すれば、そんなことをしなくても良いのです。

 これをDMOの三層構造とここでは呼びましょう。特徴的なポイントは以下の3つです。

  1. 超域DMOとしての官公庁
  2. 三層間の業務(目標)と人材の違い
  3. 三層間の積極的な連携(相互依存)

 表内と併せて、それぞれの説明は後述しますが、ここでは一つのDMOが第一講で述べたDMOの機能全てを網羅する必要はない、ということを覚えてください。

1.超域DMOとしての官公庁

 超域DMOとはグローバルDMO(GDMO)、すなわち日本の特定地域ではなく日本そのものの魅力を発信するDMOを指します。それって観光庁の外郭団体である政府観光局(JNTO)でしょ、と思うかもしれませんが、日本の縦割り行政を鑑みればそうとも言い切れません。

 例えば、自然資源のトップノッチである国立公園は「環境省」が、博物館などの文化資源などに関しては「文化庁」が、スポーツイベントなどになると「スポーツ庁」がそれぞれ「明日の日本を支える観光ビジョン」に則って誘客キャンペーンを行っています。言い換えれば特定のコンテンツで横ぐしを刺せる存在であり、海外へのプロモーションの際にそういったコンテンツ・トピック別にアピールする際に重要な役割を果たすのがそれぞれの官公庁なのです。

 後述するようにGDMOの営業活動に制限はありますが、地域の観光資源にマッチしたそれぞれの官公庁がその地域への誘客に繋がるインバウンドプロモーターであることを認識してください。

2.三層間の業務(目標)と人材の違い

 三層構造では、それぞれのDMOでこなす目標が異なります。第二講で述べたように「DMOの三要素」の度合が違えば自ずと業務が異なってくるのですから、これは当然と言えます。

 上位のGDMOは海外顧客の誘客が目標なので、業務は資本化(資源が継続的に利用できる状態にすること)と市場化(マーケティング&ブランディング)がメインになります。資本化とは市場のルールづくりです。最近では観光庁が民泊のガイドラインを作成しましたが、そういった業務を指します。市場化においては特に「日本」の知名度を用いて海外の展示会などで積極的にブランディングを行い、イメージの浸透及び認知度を高めることが仕事になってきます。

 言い換えますと日本全体を見通して計画を創り実行するわけですからマクロ的な視点をもった人材が必要になってきます。ミクロのマーケティング的視点だけではダメなわけです。こう考えると必要な人材像が浮かび上がってきますね。

 

 GDMOのすぐ下に位置する広域DMO(RDMO)では、GDMOと少し異なり、既に日本にいる(来ている、含む)国内顧客に対しての市場化がメインの業務になります。もちろん条例ベースでルールを定めることも重要ですので資本化の機能もあります(各県の登山条例などがそれです)。RDMOは日本に既に来日している訪日旅行客に対しても訴求力を持ちます。なぜならば訪日旅行客はピンポイントで狭域エリアを訪問するようなピストン型の旅行活動よりも、広域エリア内で観光地を周遊しようとする行動を好むからです。彼らに対してまさに旅行商品を販売するのがこのRDMOの機能の特徴となります。

 そこで必要となってくる人材が旅行産業とマーケティングに明るい人材です。旅行代理店の出身者を求めるDMOが多いですが、その力を発揮できるのは実は三層のうちのこの層だけなのです。

 

 一番下層に位置する狭域DMO(LDMO)では上位二層とは異なり、Destination Management Organizationです。地域の理念共有のプラットフォーム機能をもち、資源化と資本化をメインのタスクとします。資源化とはその名の通り、地域の埋もれている素材を磨いてアクセスできる状態にすることを指します(余所者のまなざしを借りると、思いもよらないモノが観光資源になったりします)。そのうえで資本化、すなわち継続して利用できる状態にまでしておくことが肝要となります。継続して利用できる状態になっていれば、RDMO(や大手旅行代理店)が旅行商品に組み込み安くなるからです。

 もちろんマーケティング活動を通して自ら旅行商品の販売をしてもOKですが、狭域エリアにピンポイントで誘客できるのは休日の短い日本人顧客が中心になりますので、このことは覚えておきましょう。寧ろ、誘客しても歓待できる顧客受入基盤ができていないと意味がないので、そちらを優先するのが現実的でしょう。

 このLDMOでは、地域のマネジメントやガバナンスがタスクとなることから、地域の誰が何を知っているということを知っている(専門用語でトランザクティブメモリーと呼びます)ヒトがキーパーソンになります。外部の人材を登用する場合であってもこの地元のヒトと組ませる体制にしておくことが組織化の秘訣ですね。

3.三層間の積極的な連携(相互依存)

 上述のように三層間ではそれぞれ役割と登用・育成すべき人材像も変わってきます。そして第三講で述べたように強力なDMOの組成が構造的に難しい日本では三層間で連動してDMOが全体として機能するようにしていかなればいけません。

 その連携のカギになってくるのが、それぞれの階層に存在する制限(苦手な部分)を互いに補う発想です。超域DMOが海外でくみ取ったニーズを商品化するのは広域DMOです。広域DMOが商品化するには狭域DMOからの仕入れが必要になってきます。逆の視点からみれば狭域DMOは広域DMOの販売チャネルを利用できるし、広域DMOは超域DMOのマーケティング調査結果を利用できます。互いの制限を理解して補い合う関係性を築ければ、外部からみれば一層構造の強力なDMOに見えるのです。

 上の表は連携の一例ですが、自分たちのDMOが三層のどの位置にいて、どんな役割を負うているのか、そして制限を無くすためにはどんな相手と連携していくのが良いのかを考え、積極的にヒト、カネ、情報のやりとりを三層間で行ない相互連携を深めましょう。このやりとりをするためにDMOに法人格をわざわざもたせたと考えてください。

 その一方で別の方法でヒトとカネについて模索しようとする動きがあります。内閣府が音頭をとるDMCです。これは第五講で考察します。